本稿は、Tomas Pueyo, Coronavirus: How to Do Testing and Contact Tracing Part 3 of Coronavirus: Learning How to Dance を翻訳したものです。

【コロナウィルス】検査と接触者追跡の方法

コロナウィルス:「ダンス」の仕方を学ぶ(パート3)

これまでの投稿、「コロナウィルス:なぜ今すぐ行動しなければならないのか」「ハンマーとダンス」「多くの中から一つ」は、6千万回以上の閲覧があり、40以上の言語に翻訳されました。今回は、4番目の投稿である「ハンマーとダンス」のうちのパート3です(パート1パート2)。このシリーズは、経済を開放するために必要な具体的なステップに焦点を当てています。翻訳も歓迎します。

 

【概要】

経済を再び開放するためには、いくつかのことを正しく行うことが求められる。そこには検査や接触歴の追跡が含まれる。症状のある全ての人を検査する必要があり、その接触者を調査しなければならない。これは、検査をしたうちの陽性がせいぜい3%の水準となることを意味する。 可能な限り多くの感染者と、感染者が接触した者の70%から90%を確定し、隔離か防疫措置をとる必要がある。こうした作業を本当に迅速に(1日かそこらで)行えば、十分に感染を制御することができる。そのために、こうした作業を行う人を多く雇うとともに、テクノロジーを活用すべきである。テクノロジーは、いくつかのプライバシーとトレードオフの関係にあるが、本当に合理的である。今日製造されているBluetoothを用いた接触者を追跡するアプリは非常にすばらしい技術の成果と言えるが、いくつかの根本的な変革を行わなければ、その技術も無駄になってしまうだろう。

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現在、多くの国が「ハンマー」に耐えている。「ハンマー」とは、すなわち、経済を停止させたソーシャルディスタンスのための一連の厳しい措置のことである。何百万人もの人々が仕事、収入、貯蓄、ビジネス、自由を失った。経済的コストは残酷なものである。各国は、経済を再び開放するために何をすべきか、必死に考えている。

ありがたいことに、4つの対策パッケージにより、劇的に流行を減らすことができる。それらは経済を閉じることに比べれば、かなり安い。多くの国が「ハンマー」に耐えているとすれば、これらの対策は「メス」だと言える。つまり、一斉に体のあちこちを叩くのではなく、慎重に感染した部分を摘出するのである。

この4つの対策は相互に関連している。ひとつが欠ければ機能しない。

検査と接触者の追跡は情報であり、隔離と防疫は行動である。今回は最初の2つ – 検査と接触者の追跡 – を掘り下げ、他の2つは次回取り上げる。


検査

検査は何週間も前から話題の中心になっている。ほとんどの国で検査不足が批判されている。しかし、次の質問はほとんど聞くことがない。すなわち、どのくらいの検査が必要なのか?

 

各国はどの程度の検査を必要としているのか?

答えはその国が何をしようとしているかによって異なる。各国は2つのタイプに分類することができる。

 ひとつは米国、スペイン、英国、フランスのような国で、感染が制御不能になった。これらの国では危機に対処する準備ができていなかったために、「ハンマー」を適用した。つまり、経済を封鎖して、人々が感染するのを防ぐために 非常に厳しい一連の措置がとられたのである。これらの国はこうして感染の流行を止めようとした。

 これらの国では、大量の人々を検査する必要性は認められなかった。「ハンマー」で拡散を制限するからだ。検査する必要があるのは、病気にかかっている人、またはかかる可能性のある人(例えば、医療従事者)だけであり、こうした人々を隔離し、治療している。これらの国のほとんどは、次の図では赤やオレンジ色で示されている。

 しかし、オレンジや赤の国が「ダンス」(訳注:感染を封じ込めること)を始める前に、準備をしておく必要がある。つまり、緑色で示された第2のタイプの国に近づくために、検査を大幅に強化しなければならない。

 緑の国には台湾、ベトナム、韓国などが含まれる。こうした国もまた、患者を診断するために検査を行ったが、検査には別の用途もあった。感染した者の接触者を追跡し、症状がなくても検査を行う。感染しているかもしれないが、まだ感染しているかどうか分からない人にも広く検査を行う。

感染した者だけでなく、旅行者や追跡による判明した接触者等といったグループを追加して検査するためには、単に症状のある人を検査するだけではなく、はるかに多くの検査が必要となる。そのため、こうした国では、検査の約1~3%しか感染者を見つけられない。感染の流行を制御できた先進国では、陽性率がすべてこのレベルの水準となっている。

 緑色の線で囲われた国は、流行をコントロールし、多くの検査を行った。赤色の線で囲われた国は両方とも失敗している。ふたつのタイプの外れ値のグループがある。ひとつは、青色の丸で囲ったグループで、ここにはアイスランドが含まれるが、多くの検査を行ったものの、感染者も多くある。これは特殊な国である。すなわち、離島であり、全人口のうちからランダムに検査を行う等の多くの特殊性が認められる。もう一つのグループはグレーの丸で囲ってある。これらの国では、検査はあまり行われていないが、国民一人当たりの感染率も低い。これには多くの理由が考えられる。人口が多いために流行が遅いという恩恵を受けていること、早期に「ハンマー」を適用したこと、アウトブレイクの軌道に乗っていること...。


 ほとんどの先進国では、検査が悪ければ悪いほど、流行が悪化する。赤で囲った国のグループは検査が少なく、壊滅的な流行が発生している。一方、左下の国は検査が充実していて、症例が少ないのが特徴である。危機を最もうまく管理している国が多くの検査を行っているのだとすれば、他の国も彼らに倣うべきで、そうすると、陽性率は3%程度となる。

 シンガポールとドイツは興味深い事例である。以前は陽性率が3%より低かったが、ここのところ感染が爆発的に増加し、8%まで上昇した。望むらくは、これは検査能力の問題ではなく、検査したい人全員を検査したため、つまり、陽性率上がったのは、単により多くの陽性を発見できたからだと良いのだが、しかし、いかに感染爆発が検査能力を圧倒し得るかを示しているのかも知れない。感染爆発により、すべての症例を特定して隔離することが難しくなり、それを阻止することが難しくなるのである。

 政府はどの程度であれば検査が十分かを予測したい。しかし、検査数も患者数も常に変化しているため、それは難しい。実際、患者数は検査数によっても左右される。検査を行えば、それだけ多くの患者を発見することになるからである。では、どうすれば、十分な検査数を予測することができるだろうか?

上の図では、各日の新規患者数赤色の線、新規検査数緑色の線で表されている。両者を比較できるように目盛りが付けられている。先ほど見たように、感染の流行を制御した国々の経験から、少なくとも3%の陽性率を目指すべきだということがわかる。つまり、検査数を示す右軸は、患者数を示す左軸よりも33倍以上の目盛りになる。これにより、検査数が十分にあるかどうかが簡単にわかる。

韓国では、流行が本格化したとき、突如として検査数に対して患者数が多すぎる状況になり、公式の患者数(赤い部分)を信頼できなくなった。しかし、数週間のうちに、再び緑色のゾーンとなるのに十分な検査をすることができた。現在では、毎日のように、3%の閾値を下回る必要以上の検査を行っている。その数値は1%前後である。

イタリアと比較してみよう。

上の図を見ると分かるとおり、イタリアは一貫して毎日の検査数を増やしてきたが、状況を把握するにはまだ十分でない。しかし、このグラフを見れば、いつその閾値を下回るかの感覚を持つことができる。患者数が減少し続け、検査数が増加し続けていれば、数週間後には閾値を下回るかもしれない。

他の国の事例ももう少し見てみよう。

1日の検査人数に関する明確なデータを持っている国が非常に少ないため、ここにあげた国は非常に少ない。国によっては毎日の数字がない国もあり、また、他の国では検査の単位が何なのか(人なのか検査キットなのか)不明瞭である。一体、一カ国あたりいくつの検査キットがあるのだろうか?台湾の数字は検査キットの数を表しているが、一人あたり何個の検査キットがあるのかはわからない。しかし、台湾の場合、赤色の線は緑色の線に比べれば十分に低いので、検査キットが一人当たり二つしかないとしても、赤色の線が緑色の線を下回ることはないだろう。特に効率を上げるための巧妙な検査戦術を使っているのであればなおさらである。


これらのグラフは、ほとんどの国が十分な検査からどれだけ離れているかを明確に示している。

十分な検査があれば、「ダンス」の段階に入ることができる。感染者を隔離し、接触者を隔離することで、流行を管理することができる。これを行うことで、感染させ得る人やその可能性のある人を素早く特定し、他の人への感染を防ぐことができ、その結果、全員を隔離して自由を制限することなく、人々を守ることができる。人々は外出することができ、経済を再起動させることができる。だからこそ、もっと検査をして、陽性の割合が3%になるまで検査を増やすことがとても重要なのである。

検査が不十分だと、感染者を隔離できないので、どこにいるのかわからなくなり、強制的に封鎖をかけざるを得なくなる。

検査が制限されている限り、国はまず誰を検査するかを決めなければならない。少ない検査の優先順位をどのように決めることができるのだろうか?

 検査の優先順位

先述したとおり、最初に検査するのは症状のある人たちで、通常は病院や医者の診察室で、誰を治療して隔離するかを知る。こうした作業は、国が「ハンマー」の間に大抵実施することである。

 「ダンス」の準備をしている国にとっては、症状のある人にアプローチできれば、次は、症状のない人の検査を始める必要がある。接触者の追跡により、これが可能になる。すなわち、病気になるかもしれない人を見つけ出して検査するのである。

以前の記事を読んだ方は、次の図を見たことがあるだろう。

この図が、オックスフォード大学から出版された『サイエンス』に掲載された素晴らしい論文からの引用だという点に留意されたい。コロナウィルスがどのようにして人から人へと広がっていくのかを明らかにするために、非常に長い時間幅で書かれている。横軸は最初に感染者が出た日からの日数を示し、縦軸はある特定の日のうちに何人が感染したかを示している。例えば、感染者発生から5日目には、感染者は平均して0.4人近くの人に感染させている。感染のほとんどは、すでに症状が出ている人や、これから症状が出る人から直接感染している(これを前臨床と呼ぶ)。また、ケースとしては稀だが、環境から感染する場合もあり(恐らく、物の表面から)、さらに稀な場合には、ウィルスを持っていても症状が出ない人からの感染もある。

検査と接触者の追跡は情報であり、隔離と検疫は行動である

症状のある人だけを検査して隔離した場合、R(実効再生産数)はせいぜい40%程度まで下げることができる。現在の流行のようにRが2.5や3であれば、これでは1以下に下げることはできない。

しかし、彼らの接触者を追跡して検査もすれば、今では発症する前の人も捕まえることができ、感染率を最大85%まで下げることができる。

まとめると、症状のある人とその接触者の両方に多くの検査をする必要がある。

しかし、それは検査が完璧である場合にのみ、Rを85%削減することができるというだけである。実際の生活では、それなりに時間がかかる。時間はどれほど重要なのだろうか?

 検査におけるスピードの重要性

検査作業が迅速でなかったり、検査を受けるのが大変だったり、費用が高かったりすると、人々は時間通りに検査を受けられなかったり、結果が迅速に得られなかったりする。その結果、感染者を隔離する時間がないうちに、大量の感染が発生してしまう。

接触者の追跡も同じ考え方である。感染から平均3日かけて接触者を追跡し、検疫や隔離を行うと、大量の感染が生じてしまう。

ここで重要なのは次の三項目である。 

 この三項目の重要性をどのように比較すれば良いだろうか。まず、即時の検査と接触者追跡を想像してみよう。

この図は、オックスフォード大学の論文から抜粋したもので、どの程度の感染者とその接触者を特定する必要があることを示している。特定することにより、感染者を隔離また防疫し、流行の感染率を下げることができる。

感染の流行は赤/オレンジのゾーンで大きくなり、緑のゾーンで縮小する。その境界は黒い線で、点線はその信頼区間である(不確実性を表す)。線上にある点であれば、どの点であっても、流行を制御することができれば仮定されている。したがって、例えば、赤色で示されたXの位置に注目してほしい。この点は、症状のある患者の60%を他の誰かに感染する前に瞬時に隔離し、接触者の50%以上を瞬時に追跡し、誰かに感染する前に隔離・検疫することができれば、流行を制御できることを示している。

 難しく聞こえるだろう。うまくやれば、この対策だけで、流行を止めることができる。しかし、うまく行わない場合でも役には立つ。例えば、感染者の50%と接触者の30%を隔離することで、緑の領域に近づくことができる。これは良い。これにマスク着用などの他の対策を組み合わせれば、「ハンマー」を使わなくても、流行抑制に近づくことができる。

この図が仮定しているもうひとつのことは、感染から検査や接触者の追跡までの間に遅延がないということである。しかし、現実の世界では遅延は避けられない。これはどれくらい重要なのだろうか?

上図のうち最も右のものは、前の図と同じものである。他の三つの図は、症状のある人と無症状の人を隔離するのに1日、2日、3日の遅れがあった場合にどうなるかを示している。

 左の図から見てみよう。基本的には次のようなことが分かる。「隔離と防疫に三日の遅れがあった場合、病気を止めるのは非常に難しい」。多少の役にはたつが、この程度遅れると、ほとんど役に立たない。

 二つ目の図からは次のことが分かる「隔離と防疫の両方に二日の遅れがあった場合 この対策だけで流行を止めるためには、感染者の少なくとも70%~90%を隔離し、接触者の少なくとも70%~90%を追跡する必要がある」。

別の言い方をすると、次のようになる。すなわち、これらの対策だけで、経済を停止することなく感染の流行を制御するためには、人々を検査し、病人を隔離し、接触者を追跡し、隔離することを迅速かつ効果的に行わなければならない。超迅速に、かつ本当に効果的に行う必要がある。もし、そうでなければ、これらの対策だけで流行をコントロールすることはできない。

これらの一連の対策をうまく実行しなければ、流行を制御するのは非常に難しく、他の奇跡的な対策を見つけるか、集団免疫を得るか、別の「ハンマー」を適用するかのいずれかが、どうしても求められる。しかも、相当の経済的コストか、大量の死をともなう。

だからこそ、各国にとって、できるだけ早く効果のある検査をたくさん行うことが非常に重要である。量とスピードの両方が求められる。

韓国のドライブスルー検査や電話ボックス検査が、ひとつのモデルとなっている。人々が検査を受けやすくなればなるほど、より多くの人々が迅速に検査を受けるようになり、流行の抑制につながる。

国によっては、すべての人を常時検査することを検討しているところもある。例えば、アメリカの人口のほとんどが毎週検査を受けていると想像してみよう。3億3千万の人口のうち3億人が検査を受けているとしよう。そうすれば、国はいつでも誰が病気になっているかを知ることができ、流行を制御することができるだろう。しかし、毎週3億人の検査を行うことは、今ではちょっと現実的でないし、少し高価になるかもしれない。1年で150億件以上の検査をすることになる。量が多いので、非常に安いと仮定しよう。一人20ドルとしよう。すると3,000億ドルである。これは、2兆ドルの刺激策のうちの15%だとしても、かなり高いコストである。

これは非常に高価で、現実的ではない。しかし、より多くの人をテストする効率的な方法があれば、計算は変わるかもしれない。

方法はある。例えば、この論文は、感染している人が少ない場合(つまり有病率が低い場合)に、巧妙に一度にたくさんの人を検査して、必要な検査の数を8倍に減らす方法を説明している。集団検査のコストを3,000億ドルから400億ドル以下に下げることができれば、大きな改善と言えよう。ドイツ、オーストリア、イスラエル、アメリカなど、多くの国がすでに実施している

もうひとつの大変有望な方法は、下水検査である。

考え方としては、コロナウィルスが下水にどれくらいあるかをはかることができ、それにより、どれくらいの人が感染しているかが広い範囲でわかる。ここから、さらに上流の下水を検査し、どこからウィルスがきたか建物を特定することができる。その建物にいる全員を検査し、感染者を隔離するのである。

まとめよう。

ここで、接触者の追跡という考えに至る。

注:血清学的検査やその他の検査の詳細については、また別の機会に取り上げる。 このセクションでは、@Genevieve Gee氏の検査に関する研究から得たアイデアや情報源を多く引用している。特に、陽性率を追跡するというアイデアは彼女のものである。


接触者の追跡

ここが、本記事の中で最も大切な部分である。それは野心的なものである。得るものは非常に多い。先ほど見たように、接触者の追跡がきちんとできれば感染を大幅にへらすことができます。「ハンマー」から「ダンス」へと移動し、経済を安全に再開するためには不可欠です。しかし、それはまた非常に複雑で、個人情報の問題が多くある。

しかし、それに入る前に、接触者の追跡とはどういうことなのかよく理解しておく必要がある。

感染した人を「ボブ」としよう。彼の接触者をできるだけ多く、できるだけ早く特定したい。問題は、彼が会った人全員ではなく、感染した可能性のある人だ。

そのためには、接触者を追跡するチームが必要である。

2020年4月16日(木)、アンカレッジ保健局とアンカレッジ学区の看護師たちは、アンカレッジのダウンタウンにある保健局の会議室で、COVID-19接触調査及びモニタリングのチームとして作業を行っている。写真撮影。Loren Holmes / ADN, via Anchorage Daily News


接触者を追跡する調査員にはいくつかの役割がある。まず、調査員には「ボブ」のような感染者のリストが与えられる。調査員はボブにインタビューをして、彼がここ数週間でどこに行ったか、誰と一緒にいたかを調べる。ボブも人間なので、信頼できる情報ばかりではない。忘れっぽかったり、病気だったり、パニックになっていたり、悲しかったり、非協力的だったり、上記のすべてを抱えているかもしれない。そのため、接触者を追跡する調査員もテクノロジーを利用する。例えば、韓国では、携帯電話のGPSデータ、クレジットカードの支出データ、監視カメラの映像などを利用している。もう一つの例は、接触者を追跡するアプリからデータを利用することかもしれない。

これらの情報をもとに、感染の可能性が高い順に、感染した可能性のあるボブの接触者のリストを作成する。そして、これらすべての接触者に電話をかける。感染の可能性と政府のルールにしたがって、検査を受けるように命令したり、自己隔離をしたり、症状を確認したりする。できるだけ早く、できるだけ多くの接触者を捕まえたい。

しかし、接触とは何か?どのくらいの接触者を追跡する必要があるのか?どのくらいの速さで追跡する必要があるのか?

「接触者」となる基準は?

ほとんどの場合、感染するのは2週間程度と考えられているため、ボブが過去数週間の間に接触した可能性のある人だけを対象とする。それ以前にボブが感染している可能性は低く、もし感染していたとしても、その接触者はもう感染している可能性は低いと考えられる。

この2週間のうちに、感染する可能性の高い人だけを特定したい。ボブの家族  全員 非常に その可能性が高い。逆に言えば、彼が5m離れた道ですれ違った人々のことは、それほど気にしていない。

「皆んなで真似する基本的なダンスステップ」で見たように、人と人との距離が近く、話したり、咳をしたり、歌を歌ったりしている時間が長いといった限られた環境で、感染はずっと起こりやすい。

国はそれをルールに変換する。例えば、2メートル以内に15分以上一緒にいる場合、ボブの接触を調査する。理にかなっているように聞こえる。しかし、実際には、追跡者の仕事はそれよりもずっと微妙である。向かい合って座って1時間食事をした人は、リスクが高いとマークされ、数時間ごとに調査員がチェックして隔離するように言われるかもしれないし、食料品店で並んでいた人は、特に注意して症状をこまめにチェックするように言われるかもしれない。

何人の接触者を追跡する必要があるのか?

R(実効再生産数、コロナウィルスの保持者によって引き起こされる感染者の数)を大幅に減らすためには、接触者の少なくとも60%を追跡し、直ちに隔離/隔離する必要があることを前に見た。しかし、その論文では、R0を2.5と仮定していた(R0はまだ誰も免疫がなく、何の対策も講じられていない場合での再生産数)。それが違っていたらどうだろうか?

この論文はそれを検討している。様々なR0の値を想定し、Rを1より低くするためには、どの程度の割合の接触者を追跡する必要があるかを評価された。下図で示された各線は、1.5(赤線)、2.5(灰色線)、3.5(茶色線)の異なるR0を表している。

横軸は追跡された接触者のシェアを示し、縦軸はRへの効果を示している。

一番上の茶色の線を見てみよう。R0=3.5である。何もしなければ、感染率は3に近くなる。つまり、各人が他の3人に感染する(論文では感染者の隔離を前提としているので、3.5ではない)。その後、より多くの接触者が追跡され、防疫措置がとられるにつれて、Rは低下する。

茶色の線は、90%程度の接触者を追跡したところで、「1」の点線より下に行くことがわかる。つまり、流行を止めるためには、90%の接触者を追跡し、感染しないようにする必要がある。もしうまくやれば、これらの措置だけで流行を食い止めることができる。しかし、もし完璧にできなくても、ありがたいことに、これらの措置には効果がある。

茶色の線の周りに、ある程度の茶色の領域がある。これは、以上の計算が完璧ではないことを示している。データが不足しているので、ある程度の推測をする必要がある。90%の接触者を追跡しても、R=1.5にしかならないかもしれないし、0.5にしかならないかもしれない。確信を持つことはできない。しかし、間違いなくRを大幅に低下させる。

R0=3.5の代わりに、R0=2.5(灰色の線)を見ると、最良の推測では、70%の接触者を特定すれば、流行を止めるのに十分である。

この数字を心に留めておこう。データによれば、流行を減らすことができる程度も大きな効果を得るためには、70%から90%の接触者をできるだけ早く追跡したい。

ある論文によると、それは感染者1人につき約20~30人の接触者を追跡することを意味する。

調査員は何人必要か?

ジョンズ・ホプキンス大学では以下のように考えている。

ジョンズ・ホプキンス大学の計画によると、米国には10万の接触者を追跡する調査員が必要である。他の計算では30万人である。推計は非常に幅が広い。この推計の幅は、上の図における非常に広い幅を反映したものである。上の図において、武漢とニュージーランドの間には10倍の差がある。なぜだろうか?

一人あたりに必要な接触者を追跡する調査員数のこの差には意味がない。ある国の人口が 100 万人で感染症がゼロで、他の国の人口が 100 万人で感染症が 1 万人だったとする。同じ数の追跡調査員を持つべきだろうか?答えはNOだ。人口には意味がない。

接触者を追跡する調査員を雇うということは、調査員の時間を買うことを意味する。必要とされる時間は、患者数と患者一人あたりにかける時間に依存する。

患者数は国ごとに違うし、流行の具合にもよる。患者一人あたりに必要な時間は、訓練や技術によっても異なる。規模感をつかむために、いくつかの例を挙げてみよう。

ピーク時には、湖北省には1,800人のチームがあり、5人の調査員が接触調査を行っていた。つまり、9,000人の調査員がいたことになる。公表されているピーク時の件数は約4,000件であった。9,000人の調査員は、湖北市が封鎖されてから平均して数日後に採用され、1ヶ月くらいで患者が治癒し、危機が収まったと仮定しよう。

この期間に、9,000人の調査員が27日間(週末がないと仮定して)働いた場合、約63,000件の患者を処理することができたことになる。つまり、1患者あたりに4労働日である(1労働日は一人が1日働いたことを意味する。だから、4労働日は4人が1日ずつ働いたか、1人が4日働いたことを意味する)。彼らが数日早く雇われて患者に対応したと仮定すると、1患者あたり5、6労働日になるかもしれないが、それ以上ではない。

これを元メディケア・メディケイドセンター長のツイッターでの発言と比較してみる。

これによると、1患者当たりのコストは12~15 労働日である。

ある国で1日に10,000人の新たな感染者が出たとしよう。そして、その国の検査では約3%の陽性が出ているので、これは十分にあり得る数字である(検査の節で見たように、これは実際に何が起こっているのかを知るのに良い数字である)。

彼らが接触者を追跡する技術を持っていないと仮定すると、調査員は感染者に電話をかけ、感染者と面談し、次に接触者全員に電話をかけ、一つずつ面談する必要がある。それぞれの会話には非常に長い時間がかかる。というのは。2日前に誰とランチしたか覚えていないし、2週間前のことは忘れているので、ということを覚えていないからだ。そして、報告書を作成し、データを分析し、ケース間の相互に関係を調べる等の作業が必要になる。

1件あたり15労働日かかるとすると、毎日15×10,000=15万人分の労働日が求められるので、15万人の雇用が必要になる。週末、休日、病欠などをカバーする必要がある場合は、約20万人の数になる。あらゆるコストを含め1時間あたり20ドルかかると仮定すると、年間70億ドル(訳注:約7,000億円)になる。かなりの高額だが、現在の経済のシャットダウンのコストに比べれば、わずかである。

別の想像してみよう。1日に1万件ではなく、新しい患者が1,000件であったとする。必要とされる労働者は1日あたり2万人に減少する。

残念なことに、これらのシナリオはどちらも3日間かかる。一人の患者について3日間、5人働く必要があるからである。このように、時間が非常に重要である。

次のような想像をしてみよう。1 日に 1,000 件の新規患者がある。5 人のチームが 1 日に 1 人の患者の調査を完全に行うことができる。これは武漢と同等の生産性である。5,000人の調査員(休日などを含めて7,000人)がいれば、3日以内ではなく、1日以内にすべての患者をカバーすることができる。

これらの数字はあくまでも概算である。目的は、これらのことをどのように考え、各国がそのコストを数値化して最小化するよう働きかけ、大まかな規模を示すことにある。この規模を示すことによって。多くのことに気づくことができる。

想像してみよう。ボブ(赤点で示された感染者)はかなり社交的で、過去2週間で55人の接触者との濃厚な交流があった。調査員との会話の中で、彼が4人の家族について話すのは簡単かもしれない。彼のカレンダーを調べてみると、彼が会議をしたことのある8人の同僚のことを話すことができるかもしれない。さらに、彼は4人の友人と食事をしたことや、食料品店に行ったことを覚えている。

監視カメラの記録を見た後、調査員は食料品店でのボブの動きを見て、さらに2人の接触者を特定し、合計18人の接触者を追跡することができる。調査員は仕事上の接触者の電話番号や食料品店の人々の身元を知らないので、これらの接触者を入手するために雇用主と店に話を聞く必要がある。以上のことは、ボブが調査に協力的だと仮定している。

(濃厚接触者55人のうち)18人というのは半分以下で、残念ながら調査に3日かかった。注意してほしいのは、理想的には1日以内に接触者のうち70%から90%の追跡を必要としているということである。しかし、以上のプロセスにおいては、ボブの協力と記憶力に頼っており、苦労してすべてのデータを得なければならない。それだけでは十分ではない。

これらのことを成功させた国は韓国である。韓国はどのようにしているのだろうか?

接触者追跡の技術:感染者の個人データ

 韓国における接触者追跡の調査員は、ボブのような感染者のGPSとクレジットカードの支出データにアクセスできる。このおかげで、ボブが過去2週間どこにいたかを簡単に把握することができる(上図における緑色の四角で囲まれた部分)。

これらの情報によりボブの記憶が更新されれば、彼が会った可能性のあるすべての人々を識別することがはるかに簡単になる。また、監視カメラや他のもの(バスやスポーツジムのタグシステムにアクセスする等)で補完することができる。その結果、この仮定シナリオでは、18人から41人の接触者を追跡することができる。まだ(濃厚接触者である)55人には到達していないが、かなり近づいている。すでに75%になっていて、感染率に劇的な影響を与えることができる程度に至っている。

これらの数字は概算だが、韓国の現実を反映している。これが韓国のやり方であり、新たな爆発的な増加を避けることができている。これは、他に何もしなくても、これだけで十分に感染の流行を抑えられることを示している。

本稿でまだ議論していない、もう一つの大きな利点もある。

「コロナウィルス:ダンスの仕方を学ぶ」では、韓国がどのようにして感染者がいつどこで感染したかを公表したのかを説明した。人々は、自分が行ったことのある場所に感染者がしたかどうか、自分自身が感染していたかもしれないかどうかを知るために、すぐに調べることができ、検査を受けに行くことができる。

さらに、この情報を携帯電話にダウンロードして、アプリを使って、感染場所に関して政府が公表したデータと、自分の移動データが一致するかどうかを自動的に調べることができる。そうすれば、アプリがあれば、誰かが感染しているのに出くわしたかどうかをすぐに知ることができる。

即効性があるので(「あ、どこかで感染したかどうかがわかるアプリがあるのか。知りたい!」)、人々がそのようなアプリをダウンロードして利用する可能性が高い。

上記のすべてを可能にするためには、当局はボブのような感染者のクレジットカードの支出や携帯電話の移動データにアクセスする必要がある。

いよいよ個人情報について話す時が来た。


接触者追跡のプライバシー

注:この節を執筆するために、何人かの疫学およびプライバシーの専門家と話をしたが、結論は最終的なものではない。接触者追跡とプライバシーに関する議論を深めるために、以下のような考えを提示し、他の専門家と議論したい。

これを読んだ人の中には、人々のプライバシー権を侵害しているので、受け入れられないという反応をする人もいるかもしれない。2001年以降、米国が愛国者法に苦しんでいるように、政府がデータ収集やプライバシー侵害を行う方向に後押しするものだと言うのである。

後ほど議論することになるが、現時点ではこれらは全く妥当ではない。批判する人たちが気付いていないのは、多くの国では、「法定伝染病」と呼ばれるもののために、上記のことを達成するために法律を変える必要がないということである。

「法定伝染病」におけるプライバシー

ボブは感染している。このため、彼はコミュニティにとって人々の健康を害する存在である。彼にはプライバシーの権利があり、イギリスフランスのような多くの国では何世紀にもわたって権利が保障されている。オーストラリアなどもっと多くの国でも同様のルールがある。アメリカでは州レベルである。

これは理にかなっている。感染症がどれほど壊滅的なものになるのかを、われわれは忘れてしまっている。

{資料出所) Donald G McNeil Jrからインスピレーションを得た。ありがとう。


上の図を見ると、米国では疫病の影響で死亡率が年々大きく変動していたことがわかる。しかし、浄水の塩素化などの対策が行われると、大幅に感染が増加するということはなくなった。

感染病とはこのようなものである。当時、病人は社会の存亡に関わる存在であり、健康な人と同じ権利を持たないことが常識であった。感染者を識別し、隔離することは非常に重要であったので、当局にはそれを行う権利があった。

今日でも、これに当てはまる多くの病気がある。しかし、考え方は同じである。つまり、社会にとって脅威であるならば、当局はそのリスクを取り除くために準備しておかなければならない。

もしコロナウィルスが「法定伝染病」と規定されていたら、医師は直ちに当局に陽性を報告しなければならないだろう。そして、所管の機関は、ボブの接触者を追跡するために、持っている資源、データ、ツールを利用するための準備をしなければならない。

以上の三つのステップ(法定伝染病のリストに含めること、当局に病気を通知するプロセス、そしてプライバシーの権利が放棄されること)は、通常、国ごとに三つの異なる法律に対応しているため、何をすべきかについては国ごとに異なる考え方がある。

しかし、ボブのファイルを当局に送る国においては、警察が悪質な行為者を特定し、位置を特定するため、携帯電話やクレジットカードのデータにアクセスすることと何ら違いはない。当局はすでにそれを行うことができるし、どんなこともできる特別な権限を付与することなく、それを行うことができるはずである。

GPSやクレジットカードのデータに簡単にアクセスできる技術的な方法があろうがなかろうが関係ない。接触者を追跡する調査員はすでにこの種の情報にアクセスできるはずである。それを人為的に難しくするのはナンセンスである。

少なくともここで言えるのは、以上は韓国で保障されているプライバシー権利の水準であり、問題を解決するには十分だろうということである。2015年のMERS発生後、韓国はこのための特別立法を承認した。したがって、他国も同様のことができる。

もう一度言おう。これは、世界中で発生してきた大規模な感染を適切に停止するための貴重なツールである。ここでは本格的なプライバシーの議論を必要としない。これを実際に実施することに集中すべきである。

しかし、もっとできることがある。本当のプライバシーの議論はここに関するものにするべきである。当局は、まだ公式に感染したと判定されていない人々のデータにもアクセスできるようにすべきだろうか?

追跡された接触者のプライバシー

さて、ボブからのクレジットカードと移動データに加えて、携帯電話会社からの潜在的な接触者のリストを受け取ったとしよう。

携帯電話会社はいつでもあなたの位置を知っている。これを記録することができる。あなたの近くにいた人も一緒である。2人が一定時間近くにいれば(例えば2mの距離の範囲内で10分以上など)、記録される。主要な携帯電話事業者が1社しかない国ではそれが簡単にできるが、事業者が多い国では、各社が他社の顧客のデータを見ることができないにして、このようなデータベースを作ることもできる。

政府は、ボブのすべての接触者と、その接触がいつ、どこで起こったのかを知るために要請することができ、他の人々について、それ以上の詳細を調べることはない。

間違って接触者だとしてしまうことも多くあるだろう。例えば、GPSで高さを知ることができるが、適切に処理されずにデータが提示されることもあり得る。その結果、集合住宅では、同じアパートに住んでいる人全員が接触者であるかのように見えてしまう。しかし、接触者を追跡する調査員は、同じ場所で継続して見いだされるものの、実際には同居していない人をすべて排除することで、これらのほとんどを除外することができる。

こうした状況で政府に与えられるデータは、まさに政府に持っていてほしいデータである。すなわち、一方では感染者の個人的な移動データ、もう一方では接触したデータである。人々の移動に関するデータを大量に保持している人はいない。従来も保持されていなかった。しかし、データを保持することが非常に重要となる今日の特別な状況は例外である。

携帯電話事業者も、通常取得するデータよりも多くのデータにアクセスすることはできない。こうして、接触者の追跡を強化しながら、プライバシーを保護している。

ここでの欠点は、GPSが十分に正確ではないということである。実際にあった接触を見逃しているかもしれないし、実際にはなかった接触が記録されるかもしれない。GPSを実際により正確なものにすることもできる。それは、米軍が保有しているより詳細なGPSへのアクセスを認めれば、の話しである。しかし、そうはしたくないだろう。あるいは、AIツールを使用することも考えられる。しかし、この方法が全く役に立たないほど精度が悪いということもあり得る。もしかしたら、密度の低い地域でしか機能しないのかもしれない。私はまだこの点について深く研究した分析を見たことがない。この先、そうした研究を楽しみにしている。

GPSのこの限界により、非常に多くの国がBluetoothを使ったアプリを使おうとしているのである。


Bluetoothアプリが接触者追跡に役立つようになるには何が必要か

接触者を追跡する調査員がボブのデータにアクセスできると仮定しよう。その上で、市場で利用可能なBluetoothアプリからの接触者データに頼ることができるとしよう。

もし、これらのBluetoothアプリを知らなければ、だいたい以下のように認識されていると考えれば良い。つまり、アプリをダウンロードして設定し、アプリを開くと、自分の近くにいたすべての人の匿名コードを登録する。これは、AppleとGoogleが携帯電話でアプリが作動できるよう認めたものである。

ボブがこうしたアプリのどれかを持っていれば、自分がコロナウィルスに感染したことを通知して、この情報を当局に送ることができる。

では、このようなアプリを使いたいと思う人はどれくらいいるのだろうか。

第1回を読んでいただいた方は、シンガポールの公式Bluetoothアプリである「TraceTogether」の普及率が20%しかないことをご存知だろう。アイスランドは、高いレベルの普及率を達成することができるはずの国だが、わずか40%の普及率である。インドが公表したアプリは5,000万人にダウンロードされた。これは成功例にきこえるが、人口の4%未満に過ぎない。

よほど楽観的に考えて、ほとんどの国がシンガポールよりも50%良い結果を出すことができると仮定してみよう。(実際にはこれは可能性が低い。シンガポールは非常に豊かで、誰もがスマートフォンを持っていて、教育水準が非常に高く、人々は政府を信頼している)。つまり、人口の30%がアプリをダウンロードしたと仮定するのである。

 ここでは、トルコ色(青色)の円のドットは、Bluetoothアプリのいずれかをダウンロードした接触者である。残念ながら、ボブはダウンロードしていない。したがって、この状況ではすべてが無意味である。アプリの普及率が30%であれば、70%のケースでこのようになる。

では、今、ボブが実際にアプリをインストールしていると仮定してみよう。いや、それだけでなく、ボブは非常に勤勉であり、すべての設定を終え、Bluetoothは常時有効になっている。

この場合、接触者を追跡する調査員は、ボブの接触者を8人、つまり把握が必要な接触者のうちの約15%を追加することができる。なぜこんなに少ないのだろうか?それは、まず、Bobの接触者の30%しかアプリを持っていないからである。もう少し多いかもしれない。Bobがアプリを持っているということは、彼がアプリを使う必要性を認識しているということであり、彼の友人は彼のようになる可能性が高いということである。彼の接触者の40%がアプリをダウンロードしたと仮定してみよう。しかし、Bobの接触者の多くは、それを開くこともなく、設定することもなく、設定していても、お互いに出くわしたときにBluetoothが有効になっていなかった。

つまり、70%の確率で、ボブはアプリを持っていないので、何の情報も得られない。彼がそれをダウンロードしたとしても、彼がそれを開くか、それを設定するか、またはブルートゥースを有効にしていないかもしれない。ダウンロードした人の50%だけが意図した通りに使用していると想像してみよう。つまり、85%の割合で、接触者を追跡する調査員は関連情報を持っているアプリを持っていない人に出くわしてしまうことになる。

残りの約15%の感染者については、接触者のうち15%しかアプリが適切に機能しておらず、全体では約2%の接触者が追跡されることになる。

ここで思い出してほしいのは、「ハンマー」から「ダンス」に移行するためには、接触者のうち70%~90%を追跡する必要があるということである。

しかし、それだけではない!現在のアプリが設定されている方法では、人々は自分の症状を自己申告し(大部分の人は申告しないだろう)、それからそのデータを政府に送ると積極的に決心する必要がある。

善良な市民であれば、それをする人は多いだろう。しかし、多くの人はしないだろう。もし調査員にデータを渡すと、その結果、家族や友人全員が検査を受けなければならなくなり、多くの人が隔離されることになるかもしれない。もしあなたの夫やあなたの友人が2週間以上家にいなければならないために仕事を失う危険性があるとしたら、あなたはこのデータを渡すだろうか?

だとすれば、追跡された接触者の数は半分ということになってしまうかもしれない。

何人の人が以上の行動をとるかどうか誰も分からない。しかし、10年以上にわたってテクノロジー製品を取り扱ったきた経験からすれば、私はその規模を以下のように推測する。

ここでこの簡単なモデルを操作することができる。

私は楽観的に考えているかもしれない。実際は、接触者を追跡する調査員に渡された接触者の割合は0.1%に過ぎないかもしれない。あるいは悲観的にみれば5%かもしれない。あるいは10%かもしれない。しかし、現在のアプローチでは、我々が望む70%~90%には決して近づかないだろう。すべての情報は重要だが、この情報は非常に小さい。

では、これを変えるためにはどうすればいいのだろうか?まず、AppleとGoogleがOSのアップデートを作成したと想像してみよう(実際に取り組まれている)。しかし、アプリをダウンロードする代わりに、OSをアップデートするとすぐにアプリがバックグラウンドで実行され、接触者をキャッチするように最適化される。このような状況では、50%以内の人がOSをアップデートすると思われる。通常、1ヶ月以内でのアップデートの割合はこの水準である。

仮に、このようなアプリを使っても、ボブはまだ、自分が感染していることを積極的にアプリに記録して、接触者を当局に送る必要があると仮定してみよう。それも50%しかやらないと仮定してみよう。

それでも実際の接触者の10%でしかない! 何もないよりはマシだが、まだ役に立つレベルではない。もっとうまくできるだろうか?答えはイエスだ。

今、オペレーティングシステムのダウンロードが自動的に行われていると仮定してみよう。ユーザーはそれをオプトアウト(拒否)すると決めるかもしれない。しかし、AppleとGoogleは非常に強く主張し、毎日、OSをアップデートするように促す。

また、次のように仮定してみよう。ボブは「法定感染症」にかかっているが、陽性反応が出たときに彼の接触者のリストをアップロードすることを選択できない。

オプトイン(同意して参加)とオプトアウト(同意して拒否)の間には、大きな違いがあると論じた研究は多い。

臓器提供の場合、その差は15%と99%の間である。接触者の追跡では、ほとんどの人はオプトアウト(拒否)しないだろう。仮にオプトアウトしたとしても、数時間ごとに新しい確認を求めたり、数時間ごとに設定に移動してオプトアウトを確認するように求めるなど、オプトインするように促すためにできることはたくさんある。政治的な理由で、どの国でもオプトアウトで99%の普及率を達成することはできないかもしれないが、これらのアプリを有用なものにしたいのであれば、これが唯一の方法である。

ここで強調したいのは、アプリが機能するためには非常に高い普及度が必要であり、利用者の個々の決定により、そのアプリの意義を大幅に落としてしまう可能性があるということだ。しかし、もしそれを達成した場合、その効果は驚くべきものになる。

誰かが病気であることが判明した直後に、当局は関連するすべての関係する接触者のリスト(プラス多くの偽陽性)を手に入れることができる。ボブとの面談は簡単で、すべての接触者にすぐに電話をかけることができる。

そして、これを実現するのはそれほど難しいことではない。以前、私が言及したAppleとGoogleの発表を覚えているだろうか?両企業が言っていることは、まずは開発者がお互いに簡単に交流できるBluetoothアプリを作れるようにするということである。その後、彼らはこれらの機能を彼らのコアのオペレーティングシステムに設置するだろう。彼らはそれをオプトインにすることを計画している。 しかし、もし必要性が十分に明確で、政府が強くそれを要求すれば、オプトアウトに変更したり、あるいは強制的に作動させるようにするのは簡単かもしれない。

忘れてはならないのは、経済を再開させることができる程度に接触者の追跡が十分に機能するような水準を維持することが重要だということである。そうすれば、「ハンマー」から「ダンス」へと移行できる。もしオプトアウトが20%から5%になれば、十分な数の接触者が追跡され、当局に送られることになる。

繰り返しになるが、この節で使用されている数字はすべて例示的なものであり、実際のものではない。これらの数字により、接触者の追跡技術が成功するために最も重要なことは、アプリが実際に使われることだということが分かる。


Bluetoothアプリの代替としてのQRコード

Bluetoothアプリ(またはiOSやAndroidに内蔵されている機能)だけではない。他にも興味深い選択肢がある。その一つは、Zerobaseが作ったQRコードを介したものである。

2020年4月1日、武漢の地下鉄にて、乗客が通行許可を得るためにQRコードをスキャンしている。 Ng Han Guan/AP Photo, via Business Insider


あなたがビルに入ると、QRコードをスキャンする必要があるかもしれない。QRコードをスキャンすることで、その時間にその場所にいること、そして同じ時間にタグを付けた他の人たちとあなたを結びつけることができる。これらのコードは非常に簡単に印刷してどこにでも掲示することができる。建物の入り口, 部屋, バス停, 電車の車両内。追跡は、はプライバシーを守るように行うことができる。

Bluetoothアプリとの違いは、技術ではない。両方ともかなり素晴らしいものだ。違いは普及しているかどうかということでである。建物に入るときにQRコードをスキャンすることを義務化することができる。オプトアウトするオプションはあるが (建物に入らない)、遵守しようとする動機付けは強力である。何か似たようなことが Bluetooth のアプリで行われる可能性がある。建物に入るために アプリを開くことが必須であった場合は、十分に普及するかもしれない。

まだ自己申告の問題があることに注意してほしい。ボブが感染していると判断されたときに、場所や接触者を自動的に当局にアップロードする方法が欲しい。

ここまで、たくさんの情報を提供した。ここで、長所と短所を含めて、すべての選択肢をまとめよう。

(資料出所)資料出所先には、色覚異常の方のために、赤と青のグラデーションによる図が用意されている。


ご覧のように、私はBluetoothのオプトイン(利用者が同意しないと作動しない)を必要とするアプリは価値がないと考えている。義務化されていないQRコードは、少なくともボブがそれをスキャンしてどこに行ったかを記録することができるので、多少はマシだ。しかし、義務化されていないと、使う人も企業も少ないので、接触者が記録されることはほとんどない。

次は人手による接触者の追跡である。いずれにせよ人による追跡は必要だからやるべきだろう。しかし、それでは接触者の一部しか追跡できないし、時間がかかるだろう。また、いずれにしても感染者とその接触者の両方のプライバシーを侵害することになる。

次に、接触者の追跡を実質的に支援する一連の技術がある。ボブのGPSとクレジットカードのデータへの自動アクセスを介して、携帯電話事業者主導のGPSと一致させるか、またはオプトアウトのBluetoothによる接触者の追跡アプリなどの方法があるが、これらより、本当に高速で多くの情報が提供される。プライバシー上のコストは小さい。

最高のオプションは、必須のQRコードまたはBluetoothアプリである。接触者の情報はすぐに分かる。プライバシーは合理的に守ることができる。なぜなら 当局が得られるのは、本人の情報と、どこで、いつ接触があったのかの接触者のリストだけである。

以上の方法においては、当局はこれ以上の情報を持つ必要はない。何ヶ月にもわたってすべての動きを追跡し、データベースに保存する必要はない。誰かが感染していることが証明されれば、最後の2週間の接触だけを記録すれば良い。

プライバシー情報がこの程度に削減されていても、眉をひそめるかも人がいるかもしれない。それについて話そう。


コロナウィルスとプライバシーをどう考えるべきか?

私たちは怯えている。

少しずつ、私たちの周りにあったすべての世界が、ほぼ一夜にして消えてしまった。仕事、生活、自由、大切にしていた友人関係が隔離されてしまった。

 だから、自分から奪われるもの、自分のプライバシーの話題になると、反応してしまう。抗う。プライバシーも失いたくない。

なぜなら、仕事、友人関係、自由は戻ってくることを知っているからだ。しかし、もしプライバシーを手放してしまったら、取り戻せなくなることを恐れている。

私たちは「1984」を恐れている。

私たちの行動を政府が全て知っており、行動によって点数化し、何を考えるべきかを命令してくるようなAI主導の世界を避けたいと思っている。中国にはなりたくない。

これは単なる理論上の悪夢ではない。ハンガリーは、EUの中心部で、人々が注意を払っていない間に、独裁政権に陥ってしまった。そして米国は、19年前の9.11をきっかけに承認された愛国者法の下にある。

このように恐れることは良いことだ。警戒心を抱かせるからだ。注意を払わせてくれる。この恐怖は我々がいま持っている自由に感謝し、それを守るために戦うように仕向ける。なぜなら、もし今日それを失ってしまったら、二度と取り戻せないかもしれないからだ。

しかし、その恐怖は非合理的なものではない。全てを網羅するものであってはならない。パニックに陥ってはいけない。

冷静に問題を見つめ、問題を分解し、合理的に行動を決定する必要がある。

最初に問題を分解する方法は、これはすべての人のデータではなく、感染者とその接触者という2つの小さなグループのデータであることを理解することだ。

感染者はすでにプライバシーの権利を持っている。多くの国ではすでに法制化されている。また、そうであってほしいと思っている。感染者が感染の影響を減らすために当局と協力しないことを望むだろうか?ここでの唯一の争点は、プライバシーを守ることがどの程度まで認められるかということである。

ここでの提案は、感染者について知る必要がある唯一のデータは、過去2週間にどこにいたか、誰と一緒にいたかということである。これを直接聞くのは間違っている。GPSを介してその情報を取得する、クレジットカードの支出パターン、またはBluetoothアプリを義務化することは、信頼性が高く、迅速である。同時に、警察がすでに把握できる以上には情報の暴露をしないように制限されている。

接触者については、彼らのプライバシー権は少し高くなるはずだ。接触者のクレジットカードの明細書、または全体の移動データは必要ではない。必要なのは、接触者が誰で、感染者との交流があったのか、どこで、いつ、どのくらいの期間あったのか、ということだけだ。必要なのは、直近の2~3週間の情報だけだ。これらの情報は、必須化されたBluetoothアプリ、必須化されたQRコード、携帯電話事業者からの報告書、そしておそらくは他のツールを使って収集することができる。政府はそれ以上のことを知る必要はない。ただそれだけだ。

つまり、当局が収集できるはずのデータには制限がある。

プライバシーの専門家は、位置情報の履歴データを保護する方法について、より具体的な知見を提供することができる。例えば、接触者の追跡作業を行っている企業や非営利団体(あるいはその共同)の情報はすべて把握できる。そうした事業者は、単に誰が隔離されるべきか、誰が防疫されるべきかを当局に伝えることができる。恐らくわれわれは、情報を提供することを拒否することはできないが、提供する相手を選択することができる。

この問題を扱う際の第二の方法は、政府に持っていてほしくないデータをあげることだ。ほとんどの人は、過去2年間に感染した人との接触を政府と共有しても問題ないだろう。望まれないのは、自分達の行動をすべて政府が把握することだ。

しかし、人々の行動をすべて把握することは既にできる。

米国のような国では、IRS、DHS、FBI、その他の機関を通じ、政府が既に膨大なデータをすでに持っているからというだけはない。これらの情報の多くは、すでに民間企業から入手可能だからだ。

ニューヨーク・タイムズ紙が報じたように、数十社(数百社とは言わないまでも)の企業が、ここで必要とされるデータよりもはるかに多くのデータを収集し、販売している。Google、Apple、Waze、Uber、IBM、Kiip、TheScore、Facebookなどの企業は、あなたがどこにいて、どこに行くのかを常に知っており、多くの企業がその情報を販売している。

(資料出所)New York Times

1ユーザーあたり5,000件のデータが把握されていることは、既に企業間で共有されている。自分のことを知っているよりも多いかもしれない。その情報は匿名化されて売られていることもあるが、匿名化を解除することもできる。

したがって、ここでは、すでにオンラインで買える情報よりもはるかに少ない量の情報を企業やNGO、政府と共有することを議論しているのだ。そして、それは先週のランチでボブに会ったかどうかを共有することよりもずっと重要なことなのだ。

この問題を打破する3つ目の方法は、自分自身で選択肢を購入することだ。ここで紹介するシステムはまだ極論になるものもあるかもしれない。しかし、それにもかかわらず、まだ承認はしないが、今すぐにでも構築したいと考えるかもしれない。議論に結論を見るために数ヶ月待って、新たな大規模な感染が突然に起こった場合、何兆ドルもの経済閉鎖か、スイッチを押してこの技術を使うか、どちらかを決めなければならないかもしれない。しかし、それができるのは技術が利用可能である場合だけだ。例えば、すべての人に義務付けられているBluetoothアプリケーションを使用したい場合は、数ヶ月後に選択肢を持つために、今それを構築する必要がある。

最後に、私たちが既に失ってしまった他の権利の文脈でプライバシーを考える必要がある。私たちは健康を失った。経済を失った。自由を失った。プライバシーの少しの犠牲でそれらを取り戻すことができるならば、それを考えてみる気はないだろうか?米国で承認された2兆ドルのパッケージは、大人1人あたり1万ドルに相当する。既に「フォースクエア」(位置情報を把握するプラットフォーム)に提供している情報を政府に渡すよりも、本当に1万ドル払った方がいいと思っているだろうか?

要約すると、ごく少数の人々についてのデータを共有したいだけだ。そのデータはしっかり制限されていて、少人数の人について、すでに一般に利用可能なものになっている個人情報、もしくは政府が利用可能になっている個人情報よりも少ないデータである。それらはすべて健康、経済、自由、生活を取り戻すためだ。

人は孤立することを望まない。「ダンス」することを望んでいるのだ。

本稿は、@Genevieve Gee’s の接触者追跡に関する研究から、アイディア及び資料の多くを得ている。



Tomas Pueyo
Written by

Tomas Pueyo

2 MSc in Engineering.Stanford MBA. Ex-Consultant. Creator of applications with >20M users. Currently leading a billion-dollar business @ Course Hero

Translated by Suzuki Shin and Goishi Norimichi.